大久保剛志&茂庭照幸。バンコクグラスでプレーした日本人選手から見たチームの変化

東南アジアの中で、日本人選手が最も多くプレーしているのがタイだ。昨季まで各クラブ保有7人・出場5人だった外国人枠が今季から保有5人・出場4人に減ったこともあって全体的には減少傾向だが、逆に日本人監督が増加するなど、タイと日本サッカーの結びつきは依然として強い。

5月19日にヤンマースタジアム長居で行われたセレッソ大阪対バンコクグラスFCの練習試合にも、茂庭照幸と大久保剛志という2人の日本人プレーヤーが同じピッチに立った。現在は対戦相手という関係の彼らだが、昨季はともにバンコクグラスの一員として同じ釜の飯を食った間柄。茂庭にとっては久しぶりの古巣対決ということで、何としても勝利して、Jリーグの意地とプライドを示したかったところだろう。

しかし、90分の結果はバンコクグラスの1−0の勝利。セレッソのキャプテンマークを巻いた茂庭は「絶対に負けたくなかったんで、とにかく悔しい」と不完全燃焼感をストレートに吐露した。前半19分の決勝点は、大久保のラストパスを19歳の新星・タイシット・スリパラ(39番)が決めたもの。特徴を熟知するタイの若きスターにゴールを決められのは、やはり悔しかったに違いない。加えて外国人助っ人のラザルス・カインビ(11番)やダルコ・タザブスキ(22番)らにも効果的な動きをされた。彼らの潜在能力の高さを知る茂庭としては、完封したかったのが本音だろう。

逆に、久々の日本凱旋となった大久保は、いい形でゲームを締めることができた。

「僕なんかホント、毎日がトライアウトみたいなもの。今年から外国人枠が減ったこともあり、日本人選手がいても各クラブ1人が最大ですね。去年までは2~3人いるところもあったので、正直、厳しさを感じます。

そういう環境なんで、とにかく結果残さないといけないと思いながら日々、やってます。今日もゴールシーンには絡めたんで、そこはよかったですけど、やっぱり全ては結果。貪欲にゴール狙わないといけないし、点を取らないといけなかったですね。外国人選手である自分に求められるのは、それプラスチームのために献身的にやること。守備もそうですけど、僕はそこで僕は勝負してます」と、大久保は改めてハングリー精神を強く押し出して戦ったことを明かした。

その大久保と一緒に戦った昨季とタイを離れた今季では、バンコクグラスのチーム完成度が大きく違うと、茂庭には感じられたようだ。その原動力となっているのが、今季就任したスペイン人のリカルド・ロドリゲス・スアレス監督の存在と言える。

「今年は外国人監督が来て、非常に組織的ないいサッカーになっていましたね。昨年は全体的に間延びするイメージが強かった。タイの選手たちは元の能力も技術レベルも高いですけど、守備戦術を理解しきれていないところがある。それを俺がどうにかしてやろうと思いつつ、向こうに乗り込んだんですけど、どうにも根が深くてね…。俺1人がワーワー言っても、簡単には変わらないところがありました。

なので、まずはタイ人選手のやり方に合わせつつ、自分のやれることをやろうと考えました。口で言うんじゃなくて、自分で見せるところからやろうと。そうしているうちに、途中から周りも反応してくれるようになった。最終的にタイFAカップも取れましたけど、決勝までの1週間は練習からモチベーションが違った。いい経験ができました。

ただ、今年も俺がバンコクグラスに居つづけていたら、もう少しいいプレーができたかもしれないですね(笑)」と茂庭は古巣の進化を素直に認めていた。

バンコクグラスで2シーズン目を戦う大久保は、茂庭が指摘したチームの前進をより強く実感しているという。

今回のバンコクグラスのように、タイのクラブが日本と交流を深め、優れた部分を吸収していくことは、タイサッカー界の発展につながる。実際、茂庭や大久保のように数多くの日本人選手がやってきたことで、タイ人選手たちはアジアトップレベルの経験値を学べている。タナシットらが急激に成長しているのも、こうした選手たちの一挙手一投足を間近で見ているから。そういう意味でも、日本人の貢献度は大なのだ。

「日本人選手はクオリティが高いと思うし、考え方も筋が通ってる。それをタイに落とし込めれば、リーグ全体のレベルはもっと上がる。こうやって日本のサッカー関係者が数多く関与するのは、すごくいいことだと思います。ただ、タイは日本以上にすぐに結果を求められる国。結果が出ないとすぐにアウトになるのが現実。それはホントに厳しいところですけど、何とか日本人が成績を残して、居続けることができれば、日本のいい部分をより伝えられるのかなと思いますね」

大久保がしみじみ語ったように、タイサッカー界にとっては、日本から学ぶべき点はまだまだ少なくない。バンコクグラスもセレッソとの提携によって得られるメリットを最大限生かして、今後のタイ・プレミアリーグやカップ戦の快進撃につなげていってもらいたい。


(大久保剛志)
「今日は新しいフォーメーション? そうですね。セレッソ用か正直、分かんないですけど。3−4−1−2? ボールを持った時は3−4−1−2で、ディフェンスに戻った時は4−4−2でやりました。

それがはまった? そうですね。今までにないオプションでやったので、それである程度、ボールが回ったり、しっかりチャンスも作れてたってことで、1つのオプションにはなるんじゃないかなと思います。

タイにも4−3−3のチームはある? 3バックはあります。アンカーを置くチームもあります。タイは意外とシステムをいろいろ変えるので、今年はバンコクグラスは変えずに来ましたけど。

幅を持った戦いができないとタイでは上位には行けない? そうですね。去年は3バックだったので。茂庭さんがいる時。

メンバーも毎年のように変わったりするようだが、今の監督はなかなかよさそうだが? そうですね。スペインの監督なので、しっかりとしたコンセプトというか、ブレないところがあるので、みんなついてってますよね。

今日も球際も行っていたし、守備面も組織的でオーガナイズされていた? そうですね。ホントに切り替えをつねにやってるので、だんだん意識がついてきて、失って止まる選手が多かったんですけど、失った瞬間からディフェンスって意識が今、出てきてますね。

去年見に行ったBECテロなんかは暑いせいもあるのか、倒れて試合が止まるケースが非常に多かったが? そうですね、みんなは今のサッカーがスピーディーなんだよってのがだんだん分かってきて、ホントにいい方向に進んでますよね。

今は2位? 3位ですね。ブリーラムとは勝ち点3差ですけど、2位と勝ち点で並んでの3位です。2位はムアントンです。

セレッソのキャンプはどんなプラス面? そうですね。タイはJリーグにどこかしら憧れがあるので、Jのチームとやれる、そしてセレッソというビッグクラブとやれるのはすごいモチベーションになって、実際やってみてもちろんトップチームじゃないってのもありますけど、ある程度、自分たちのサッカーができた部分もあったので、そして守備陣がゼロで抑えたっていうのも大きな自信になったと思うので、今後どういう変化が起こるか。自身が全てだと思うので、それを得られたらまた大きく変わるかなという期待はありますね。

得点した若い39番の選手は可能性がすごくある? そうですね。彼はいい選手ですね。スルーパスも出せて、裏にも飛び出せてゴールもできて、そして運動量も豊富ですからね。

将来のタイの中心? そうですね。彼が背負って行ってほしいなと思いますね。



BECテロにいるタイのメッシも注目なのですよね? そうですね。彼は今、A代表に行ってるんですけど、タオはまだ行ってないんですよね。なので早く追いついてほしいですね。まだU−22の方に行ってるので、僕はそっちに行ってもいいと思いますね。可能性はありますし。

後ろのサイドバックも若い? 彼も20歳前後ですね。

サイドチェンジも出してた? そうですね。基本的に技術はあって、ミスもしますけど、基本はレベルが高いですね。技術は。あとは戦術を理解できればホントにいいチームになっていくんで、そこをやっぱり監督がどう浸透させるかによってですね。そこがカギですね。

日本人選手も外国人枠が減ってだいぶ日本に帰ったりしているが、その中で生き残っている大久保選手はどんなことを考えている? 僕なんかホント、毎日がトライアウトみたいなもので。とにかく結果残さないといけないし、今日も点取りたかったんですけど、ゴールシーンには絡めたからそれはちょっとよかったですけど、やっぱり全ては結果なので、貪欲にゴール狙っていくし、それプラス求められるのがチームのためにってことが結構大きいので、守備もそうですけど、どれだけ献身的にやれるか。そこで僕は勝負してます。

下地選手にも話を聞いたが、タイ人は見て楽しい選手、魅力的な選手を評価すると言っていましたね? 僕は全く逆ですね。そういう選手じゃないし、5人抜ける選手じゃないし、ロングシュートを決める選手でもないし、とにかくゴール取るポジションに居つづける。どんなゴールでも取るって言うのを僕は意識してやってますね。

今日も泥臭く行ってましたね? それがゴールにつながれば、評価してくれるので、やり続けるのが大事だと思います。

外国人の選手もみんな質が高いが? 外人はいいですね。みんなナショナルチームですね。

かなり流動的に攻撃陣は動きながらポジションを変えつつ? そうですね、あれで凡ミスがもっと少なくなると、もっといいリズムで回るんですけど、たまに凡ミスが起きると、一気にカウンターとか、なんでってところがあるので、そこを直せればもっと面白い攻撃ができると思うんですけどね。でもそこは急には変えられないので、難しいですね。

去年見たBECテロよりずっとレベルが高かった? でも今日はしんどかったですね。日差しに慣れてないので。みんな毎回試合を夜やるので、日差しにみんな参ってましたね。

帰ってチームは変わりそう? みんな何か手ごたえをつかんでくれて、ホントに自信で一気にチームは変わるので、いい方向につなげたいなと思います。

みんなから自信って言葉が沢山出たが? 自信が全てだと思います。サッカーというスポーツは。

日本人監督も今年は増えたが、その影響をどう見ている? 僕は日本人が考えてるクオリティだったり、考え方というのは、すごく筋が通ってるというか、その通りだなと思うことがあるので、日本の考えとかクオリティをタイに落とし込めれば、タイがもっと上がると思うので、僕はすごくいいことだなと思います。ただ、その中でも結果を求められて、出ないとすぐにアウトになるのが現実なので、そこは厳しいところですけど、何とか日本人が成績を残して、居つづけることができれば、それを伝えることができるかなと思いますね。

枠も減って狭き門? 厳しいですね。正直、厳しいですね。去年までは各クラブに2~3人いるところもあったが、今は1人かゼロですからね。永里君のところも1人ですし。ポリスの下地君も1人になりましたね。去年はここもモニさんいましたけど」


(茂庭照幸)
「タイ人の監督しかいなかったんで、僕がいた時は。今は外国人の監督が来て、よりタイらしくないというか、いいサッカーになってたなって印象は受けましたね。

タイ人の監督の時はもう少し試合が止まったり? そうですね。全体的に間延びするイメージはありましたけど、それを俺がどうにかしてやろうと思いつつ、乗り込んだんですけど、どうにも根が深くて、それでそこに合わせつつ、自分のやれることをやろうって感じだったですね。今年もし俺がバンコクグラスにいれば、ああなるほどねと。いいチームになるなって手ごたえはありましたけどね。

岩政君もタイの選手は守備の戦術を学んでないから、その基本を教えるところからやらないといけないと言っていたが? そうですね。元の能力って意味では高い。技術的には高いレベルにある選手たちが多かったんで、まあそれをいい監督に巡り合えたのかなって感じはします。

39番の選手も去年はいた? 出てましたね。ちょいちょい出てました。でもメチャメチャ評価されてたかっていうと、そういうわけでもない。ただ、今年に入って監督変わって一気に。まだ20歳くらいですかね。

今は五輪代表だけど、代表の有力候補になってる? じゃないですか。そういう感じです。

GKもいた? いました。

彼がフォーメーションをセレッソ仕様でやってたと言っていたが? 前半は少しやりづらかったですね。でも後半はまあまあある程度、こっちも修正できたのはありましたけど。それにしてもまあ、ちょっと相手はいいメンバーでやれてて、コンディションも試合やってる分、いいだろうし、こっちは最後高校生とかも出てきちゃったんで、ああそうかというのはありましたけど。ただ、個人的にも3週間休んでからの復帰戦だったんで、ケガなくやれたのはよしとしてますけど、それでもやっぱ負けたくなかったんで、悔しいですね。

華持たせた形になった? そうですね。悔しいですね。

バンコクグラスが思ったよりいいチームだったという印象だったが、去年とは違う? そうですね。タイ人のポテンシャルが、持ってたものがより発揮されるようになったのかなっていう感じはします。タイ人がタイ人らしいままというよりも、タイ人がもう1つ上のレベルを見据えてやるサッカーになると、もともとは日本人と体格差もそう変わんないし、そういった意味では技術もあるし、上に行ったなというイメージがありますね。外人はもともとうまかったんで。外人はほぼ一緒ですね。センターバックが俺と入れ替わりなだけで。

かなり前の選手はいいが? 黒人は速いし、22番もいい選手ですね。

そういう選手と同じチームでやれたことは茂庭君的にもいい経験だった? まあでも去年のサッカーとはまた別ですからね。あそこまでよくはなかったですね。去年はリーグは10位くらいじゃないですかね。ただ、リーグはもう最後の方、捨ててたんで。カップ戦を取りに行くって形で、そのカップ戦は取れたんで、よかったですけどね。

岩政君のところもカップ取りましたよね? そうですね。

とにかく試合が止まってばっかりの印象が強かったですね、メンタル的に集中を維持するのが難しいリーグなのかな? そうですね。タイ人はそれが普通なんでね。なかなかなじめなかったですけど。

どう適応しようとした? 日本のクオリティでやりたいと思ったし、最初の20分はタイはJリーグとそれほど大きく変わるようなクオリティではない。それをなるべく90分近くできるようにはしたかったですけど、タイ人にはタイ人のプライドがあるし、俺はこれで15年タイでサッカーやってんだみたいなところもあるし、なかなか難しかったですけど、それで俺1人がワーワー言ってもちろん変えたいところもありますけど、まずは自分が見せる。口で言うんじゃなくて見せるところからにしようというイメージがありましたよ。

それをやり出して? 周りも途中からは反応してくれるようにはなりましたね。まあまあやりやすくはなりましたけど。

最後の方はカップ戦に向けては修正できた? それしか見据えてなかったんで。そこに対してはチームも1週間前の試合とのテンションは全然違いましたよね。練習から。

昨日もセレッソにいいところを見せたかったのかな? それはあるんじゃないですかね。

日本のチームに憧れがあるから? モチベーションは高かったんだと思います。39番の選手もJリーグでやれると思います。ただ、やるんだったら早く来ないとね。出来上がっちゃう前に来ないと、さっき言ったように変なところに慣れるし。それは日本では津要しないんで、来るなら早くした方がいいですね。日本人であのクオリティならメンバーには入って来れますね。ただ、外人枠を1つ削るって意味ではね。そこはいろいろと話が変わってきますけどね。でもうまいですよ。

タイリーグも年々成長している実感は持てた? そうですね。監督次第ってのはあるかなと思いますよ。ただ去年は去年でタイトルを取るってことに関していえば、今コーチやってるタイ人の監督の下でまあまあいいサッカーができたかなと思います。現実的なサッカーができたなと思います。あの人はあの人でグラスではこれからうまくやってくんじゃないかなと思います。

セレッソにとってはどう? 昨日のメンバーではねってところはあります。ケガ人が多かったんで、もう少し安藤なり、関口なり、ハシさんなりいれば、まあ展開は変わっただろうし…っていうのはありますけ、そんなことを言っても始まらないんで。

先々週の練習試合はもう少しよかったけど、ベテランと若手がピタリと合うのはなかなか難しい? そうですね。

向こうにとって自信になったと言っていたが? まあそうでしょうね。セレッソと試合で来てうれしかったのかな。僕は古巣だったから絶対負けたくなかったし。まあ試合に負けたら何言ってもダメですけどね。言い訳にしか聞こえないから。

逆にセレッソがシーズン開幕前に現地へ行って交流とか持つのはタイにとってメリットはある? そうでしょうね。来年もまたこういう機会があればいいでしょうね。

変化も分かる? ホントにこの何か月かで全然チームが変わってたんで、よかったなと思いますね」

インタビュー収録日:5月20日


文/元川悦子
1967年長野県松本市生まれ。94年からサッカー取材に携わる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は練習 にせっせと通い、アウェー戦も全て現地取材している。近著に「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由」 (カンゼン刊)がある。